農作物に含まれる放射線量に関する考察(市場流通野菜(葉菜)は過剰に放射性カリを集積している)

農作物に含まれる放射線に関して、セシウムだけではなくカリウムの放射線も考慮した上で今後の農作物のあるべき姿を提言していきたいと考えております。

キノコは特にセシウムを必要としているのでしょうか  

                  宮城県古川農業試験場土壌肥料部 長谷川栄一

海の昆布の根は根ではないので養分を吸収しません。葉状部から吸収します。一方植物は海から上陸してきましたがその際、根の養分吸収機能を進化させました。

養分の例えばカリウムは、作物の三大栄養素で多量に吸収されますが、作物が急に大きくなる時期に特に多量に吸収されるという特徴があります。海水中に比べ陸上は環境変動が大きいので、植物はカリウム不足に備え2つの戦略を工夫・進化してきました。1つめは環境にカリウムが十分ある場合には過剰に吸収してその後のあるかもしれないカリウム不足に備える体内備蓄対策、2つめは環境にカリウムがなくなった場合のカリウムに代わる特定の元素を根から代替吸収する対策です。代替吸収は根圏にカリウムが枯渇(ゼロ)すると非連続的に突然、代替吸収チャンネルが開き代替吸収が開始されます。体内カリウム備蓄(カリウムの贅沢吸収)ではカリウムを除けば他植物の養分濃度の変動は小さいのですが、代替吸収では昨日まで低い代替吸収成分濃度であったものが今日は急に突然桁違いに高まることも考えられます

カリウム代替吸収元素の代表的なものはナトリウムです。そのナトリウムまでもが枯渇した場合には植物はさらに次の対策を考えているようです。根圏にカリウムがなくなるとナトリウムを吸収し、そのナトリウムがなくなると今度はマグネシウムを代替吸収するようです( 図5 2014日本土壌肥料学会講演要旨)。この代替吸収元素に優先順位があるという仮説は、今後検証が必要です。

水稲コマツナなど多くの作物では、カリウムが十分であればナトリウム吸収はゼロではありませんが少量です。しかしカリウムが不足すると、優先順位としてまずナトリウムを、1桁多量に、積極的に代替吸収を開始しカリウムと同等程度に吸収します( 図1、 図2 2014環境放射能除染学会要旨集、1987宮城県農業センター報告)。それではセシウムも代替優先順位の中で積極的代替吸収されるのでしょうか?

セシウムカリウム枯渇時の代替優先順位元素としては認識されていないようです。セシウムカリウム存在下でも吸収され、さらにカリウム枯渇したナトリウムの存在下でも積極吸収されるからです。さらに、カリウム枯渇時にはセシウム吸収量も多くなりますが吸収されるカリウムとナトリウム原子の個数(カリウムと同じ桁数)に比べ、吸収される放射性セシウム原子の個数は桁違いに僅かです( 表1)。作物がカリウム不足時に代替吸収元素としてセシウムを識別し、セシウムだけを特別に選んで積極的に代替え吸収しているとは到底考えられません。土壌中の安定セシウムカリウムやナトリウムに比べ桁違いに僅かなので、植物の進化の過程で植物がエネルギ-を費やして識別する必要は無かったのでしょう。

玄米への放射性セシウム移行率は土壌カリウム含量の低下に伴い連続的に1桁高まりますが、セシウム移行率は水稲のナトリウムの代替吸収によく似ています  ( 図3、 図4 )。一方ナトリウム吸収1桁増大には、カリウム存在下では閉じていたナトリウム吸収チャンネルがカリウム枯渇で突然開くという非連続的なプロセス性が隠れています。そのため連続的に見える玄米へのセシウム移行率1桁上昇にも、非連続性が隠れていると考えられます。水稲はおそらく、それまで閉じていたナトリウム代替吸収チャンネルが開くと代替元素ナトリウムと微量の放射性セシウムを識別せず代替吸収するので、セシウムもナトリウムと同様1桁多く吸収されるのではないかと考えています。従来のカリウム不足 ⇒セシウムを多量吸収という理解には1段階欠落があり、正しくはカリウム不足 ⇒根の代替吸収チャンネルが開く ⇒セシウムを多量吸収と修正すべき考えています。この仮説は今後検証が必要です。

最近イオンビーム照射の突然変異体で、このナトリウムに係るトランスポーターを破壊したセシウムを吸わない稲の新品種開発されたことが大きな成果として報道されています(2017.5.31農研機構)。セシウム多量吸収が、代替ナトリウム吸収にも係わるという上記の仮説を支持する傍証として歓迎すべき貴重な報告かもしれません。ただこのような品種開発方法は、作物が気の遠くなるような長年の工夫を短時間に一挙に否定抹殺する行為にも見えます。遺伝子編集の人体への応用に似た危うさを感じます。

キノコの場合にカリウム不足時の代替吸収チャンネルがあるかないかについての情報は、ネット検索できませんでした。しかし菌床と原木シイイタケを比較すると、原木のカリウムが僅か2割弱減少すると、一方カルシウム濃度はもともと僅かですが数倍に高まる結果となっています( 図5青柳ら1993日本食品工業学会誌)。また菌床では発生回数が多くなると放射性セシウム移行率が高まる事例もあります(2012富士種菌 きのこかわら版)。また原木しいたけのカリウム含量は発生回数とともにほだ木の重量減を大きく上回るスピードで減少します( 図6、 図7 、図8 2015環境放射能除染学会要旨集)。原木や菌床シイイタケはカリウム供給が限定されるためと考えられます。これらのことから、キノコの場合でも水稲と同様に、カリウムが不足すると代替吸収が開始され同時にセシウムも急に桁違いに多量に吸収されることが起こりえるのでないかと考えています。きのこは特別なセシウムの超集積作物ではなく、例えば他の作物コマツナでさえもカリウム欠乏が過酷になるとキノコ並みのセシウム集積になるのではないかと考えていますが、これら仮説は今後検証が必要です。

しいたけは1週間程度で急に大きくなり収穫されますが、原木しいたけでは特にカリウム供給が限定されるので、キノコ発生回数が少ない初期に放射性セシウム濃度が低くても、ある日突然急に高まるリスクが考えられます。放射性Kと放射性セシウムのデーター(吉田ら1994J.Environ.Radioactivity)を整理すると放射性Kの僅かの低下とともに放射性セシウムが2桁近く高まる事例もあるので( 図9)、対策としてははキノコ放射性セシウム測定時に放射性カリウムを同時に測定してキノコのカリウム栄養状態を把握する方法も考えられます。この放射性カリウム測定の方法が実用的対策になかどうか、今後データーの蓄積と解析が必要です。

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図1コマツナカリウムとナトリウム乾物濃度%  図2水稲カリウムナトリウム

コマツナ水稲茎葉、カリウムとナトリウム濃度に明瞭な変換点がある。、変換点が過剰でも不足でもない最適カリウム濃度と考えている。市場流通コマツナ▲は3倍程度過剰にカリウムを贅沢吸収している。

 

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図3土壌交換性カリウムセシウム 図4土壌交換性カリウムとナトリウム吸収

セシウム玄米移行率と土壌カリウム含量の関係は連続的で、図4のナトリウム吸収(1987宮城県農セ報告)によく似ている。連続的に見えるがナトリウム吸収には図2のように明瞭な変換点、非連続性があるので、セシウム移行率についても連続的に見えても実は非連続的な変換点があると考えられる。

 

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図5 水耕溶液の養分濃度推移   表1 ホウレンソウ1kg中の原子個数

水耕溶液濃度が時間的に低下すると吸収されてることを意味する。カリウムがゼロになるとナトリウム吸収が始まり、ナトリウムがゼロでマグネシウム。代替吸収には順位がある。作物中の放射性セシウム原子個数は、カリウムやナトリウムの1/10000×1/10000×1/10000のさらに以下、カリウム原子数の1兆分の1 以下と極微量なので代替吸収とは考えられません。

 

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図6原木と菌床シイタケの養分濃度  図7発生回数の異なるほだぎ

2割弱のカリ一方カルシウム濃度僅かです数倍に高まるという報告があります。

ウム低下でCaを3倍以上吸収している。

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図8ほだぎ比重と体積当たりカリウム」含量  図9野生キノコのK40と放射性セシウム

発生回数とともにほだぎ比重は低下するが、カリウム含量はさらに急激に減少する。野生きのこではK40が1割低下すると放射性セシウムが2桁高まる事例がある