農作物に含まれる放射線量に関する考察(市場流通野菜(葉菜)は過剰に放射性カリを集積している)

農作物に含まれる放射線に関して、セシウムだけではなくカリウムの放射線も考慮した上で今後の農作物のあるべき姿を提言していきたいと考えております。

作物は放射性セシウムを特に必要としているのでしょうか

 H29.12.01 元宮城県古川農業試験場土壌肥料部 長谷川栄一

 

【地殻には110余の元素がありますが、植物の必須元素は16種のみ。カリウムは必須ですが地殻中の安定セシウムの含有量は極めて少なく全くなくても植物は育ちます。】

 

地球上には110余の元素が存在しますが、作物に必要な元素は16元素だけです。

例えば周期表Ⅰ族には化学的に同じ性質のナトリウム(元素記号Na)カリウム元素記号K)、ルビジウム元素記号Rb)、セシウム元素記号Cs)が属しています。

Kは植物が多量に必要としている必須元素ですが、Na、Rb、Csは必須元素ではありません。作物はNa、Rb、Csが全くなくとも正常に生育します。

 

地殻中の含有量ではNaは原子量(アボガドロ数6×1023個の原子の重さ)23g で地殻1kg中の含有量は24000mg/kg、Kは重さ39gで含有量21000mg/kg 、Rbは 90g、85mg/kg、Csは133g、3mg/kgとなり重くなるほど含有量は少なくなります。

含有量を原子量で割ってKとCsの原子数を比較すると、地殻のKはCsの21000/39/3×133=24000倍となります。地殻にはKが24000個に対し、Csは僅か1個の割合でしか含まれていません。

NaとKについては、NaはKのほぼ2倍の個数の多量のNa原子が地殻に含まれています。そして地殻に潤沢に含まれるこのNa原子を、多くの植物はK不足時に代替吸収元素として利用しています。

 

放射性セシウムCsは、46億年前を除けば、1945年以前の地上に存在しませんでした】

 

周期表Ⅰ族にはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)が属しています。

これら元素は放射能を持たない安定元素として存在していますが、46億年前地球誕生時に生成された放射性同位元素も混じっています。

半減期13億年の放射性カリウム40Kと、推定宇宙年齢の3倍にも達する半減期490億年の放射性ルビジウム87Rb、これらは半減期が長いため現在も地殻中に現存しています。

地球誕生時に生成された半減期2年と30年の放射性Cs、半減期3年の放射性Naは、半減期が短いので地殻中には存在していません。

しかし、宇宙線で生成され続けている放射性Naと、人為由来の放射性セシウム(Cs)は現在も地表に存在しています。

半減期の長い40Kは地球上のどこのKにも普遍的に0.0117%含まれていますが、規制対象とすべきか検討を要する自然放射能核種として取り上げられたこともあったようです(放射線審議会2003)。

現在の放射性セシウム(Cs)は完全に人為的要因により成されたものです。

原爆・核実験・原発事故で半減期2年の放射性セシウム134Cs、半減期30年の放射性セシウム137Csが生成されました。

46億年前を除けば、1945年広島長崎原爆以前には地球上に放射性セシウム(Cs)は存在していませんでした。

その後米ソなどの核実験により生成された放射性セシウム(Cs)は地球上にまき散らされ、土壌は放射性セシウム(Cs)で汚染されました。

安定元素も放射性元素も化学的性質は同じなので、植物は安定、放射性を区別せず吸収します。その結果土壌と同時に作物も放射性セシウム(Cs)により汚染されることになりました。

1960年代には放射性セシウム(Cs)は全国平均で水田40Bq/kg、玄米は1Bq/kg程度に汚染されましたが、半減期が比較的短いため2010年には土壌は5Bq/kg、白米で0.01Bq/kgまで概ね10分の一まで減少しています。しかし2011年福島原発事故により、全国平均で土壌は50Bq/kg、白米は0.08Bq/kg程度に、一桁跳ね上がりました(農業環境技術研究所2013)。

 2012年丸森町の畑土壌でも400~900Bq/kgが検出されています(北村 てとてと春2013)。

土壌900Bq/kgの場合、放射性セシウム137Csとすると原子個数は1.37×109×900=1.3×1012個/kg、土壌1kg中に約1兆個、地殻中の安定セシウム(Cs)原子個数Csは上記のように3/1000/133×6×1023=1.4×1019個/kg、地殻1kg中に約1兆個の1000万倍、つまり安定セシウム(Cs)原子1000万個に対し放射性セシウム(Cs)は僅か1個の割合で含まれることになります。

 

【生命は海から陸へ、陸上で工夫し進化させたとカリウム吸収体制が植物の放射性セシウム吸収を助長しているのでしょうか?】

 

46億年前に地球が誕生し、38億年前海水中で生命が誕生しました。

海水中では太陽からの有害な紫外線が遮られ、生長に必要な栄養分のすべてが潤沢に含まれていたからです。植物は養分を葉面から吸収し、根には養分吸収機能はなく、自分を岩礁に付着させるだけの役割でした。その後、海水中の光合成生物により大気に酸素が供給され、オゾン層により地上の紫外線が弱まりました。5億年前、生命は上陸を開始しました。

海水中とは異なり、しかし陸上では地殻表面(土壌)の養分濃度は場所により大きく変動します。この環境変動に対応するため、植物は根の養分吸収機能を進化させました。養分のうちカリウムは植物に多量に必要な必須元素ですが、カリウムが不足した場合の対策として多くの陸上植物が工夫し進化させたのがナトリウム代替吸収です。海中では一般にカリウム不足は発生せず、海草の放射性セシウム(Cs)濃度は一般には低い値にとどまります。しかし陸上ではカリウムが不足す場合があるので、陸上植物の多くはカリウム不足時に不足分をナトリウムで代替吸収する体制を進化させてきました。このカリウム環境変動対策として進化させた代替吸収体制が裏目となって、ナトリウム代替吸収時に放射性セシウム(Cs)が桁違いに多量に吸収されると考えています。ナトリウムの代替吸収体制を、稲の場合で説明してみます。

 

水稲カリウム原子が1個不足するとナトリウム原子を1個代替吸収します】

 

宮城県農業センター報告1986)

カリウム(K)は作物が多量に吸収するので、土壌で欠乏しやすく施肥が必要な元素です。第6図に見られるように水稲茎葉のナトリウム(Na)の濃度の間には明瞭な変換点があります。水稲は茎葉のK濃度が十分で

あれば茎葉Na濃度はごく低く、一定ですが、K 濃度が低下しK2O表示で2.0%程度に低下すると突然ナトリウム濃度が高まり始めるからです。しかも第8図に見られるようにKとNaの回帰直線の傾きは0.65で、Na2OとK2Oの原子量の比(23×2+16)/(39×2+16)=0.66によく一致しています。水稲はK一個不足するとNa一個を吸収して代替えしているのです。

 

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水稲放射性セシウムの吸収はナトリウムの代替吸収によく似ているようで・・・・ 】

 

(農研機構2012、宮城研農業センター報告1986)  

玄米への放射性セシウム(Cs)の移行率は、土壌交換性カリ(K2O表示)が25mg/100g土以上であればゼロにはならないが、低い値にとどまります。しかし5mg/100g土程度まで低下すると移行率は連続的に1桁高まります。この関係は水稲のナトリウム(Na)吸収によく似ています。土壌交換性カリが20mg/100g土であればNa吸収はゼロではないが低い値にとどまり、土壌交換性カリが5mg/100gまで低下するとNa吸収は1桁高まるからです。

図3の玄米放射性セシウム(Cs)の移行率と土壌交換性Kの関係や、第21図の水稲Na濃度と土壌交換性Kの関係では、土壌交換性Kが少なくなると連続的に徐々に高まるように見えます。しかし水稲と土壌の関係では連続的にみえますが、第6図の水稲体内のK濃度とNa濃度の関係には明瞭な変換点があり、新たなNa吸収が非連続的に始まっていることは明らかです。水稲のNaとK栄養状態の関係にはK2O表示で2.0%という明瞭な変換点があり、水稲のK栄養状態がこの変換点以下に低下するとNa濃度が突然上昇を始めるからです。

図3の放射性セシウム(Cs)吸収のグラフと第21図のNa吸収のグラフの類似性から推測すると、水稲が非連続的で突然にNa吸収を始めると、同時に放射性セシウム(Cs)をも突然、桁違いに多量に吸収し始めるというメカニズムが予想されます。

 

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水稲根は根圏にカリウムがゼロになるという刺激に反応して非連続的にナトリウム代替吸収が開始され、同時に放射性セシウムを桁違いに多量に吸収する】 (環境放射能除染学会2015)

 

水稲の水耕培地に、3mg/kg程度のナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、非放射性の安定セシウム(Cs)を添加して濃度推移を調査しました。作物は放射性セシウム(Cs)と安定セシウム(Cs)を識別できないので、安定セシウム(Cs)の挙動はそのまま放射性セシウム(Cs)の挙動となります。培地の元素濃度が低下することは、水稲の根がその元素を水中から探し出し積極的に吸収していることを意味します。

(図左)、K、Rb、Csは20時間~40時間の間にゼロまで低下しましたが、その間Naの低下はなく

 

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        図 水耕栽培培養液中の非放射性K、Na、Rb、Cs濃度推移

40時間以降K、Rb、CsがゼロになってからNaの低下が始まりました。(図右)、しかしNa低下が始まった段階でRb、Csを新たに添加すると、20~40時間に比べ数時間という短い時間でゼロになりました。

このグラフからは、水稲は根近傍にKがあれば水稲根の、多くのNa吸収ゲートが閉じているためNaを僅かしか吸収しませんが、根近傍のKがゼロになるとそれが刺激シグナルとなり、それまで閉じていたあるNa吸収ゲートが突然開きNaを多量に吸収し始め、同時に放射性セシウム(Cs)をNaに比べても非常に早い速度で吸収し始めることを示していると考えられます。

(ここに記したNa代替吸収プロセスを表現する適切な言葉が、生物学の「チャンネル」なのか「トランスポーター」なのか、生物学素人の筆者には判断できませんでした。そこで専門用語ではない「ゲート」という表現を用いてこの代替吸収のイメージを表現してみました)

 

水稲放射性セシウム吸収のメカニズムと対策(まとめ)】

 

水稲は土壌にカリウム(K)が潤沢であれば、放射性セシウム(Cs)の吸収は抑制され少ない。しかしKを闇雲に多量に施肥しても、放射性セシウム(Cs)吸収をゼロにはできない。

水稲の根近傍にKが存在している間は、ナトリウム(Na)の吸収は一定で僅かである。しかし根近傍のKがゼロまで低下するとそれがシグナルとなり、それまで閉じていた水稲根の、あるNaの吸収ゲートが非連続的に突然開き、Naは突然積極的に吸収され始める。同時に放射性セシウム(Cs)も突然、桁違いに多量に吸収される。

放射性セシウム(Cs)吸収抑制のためには根近傍のK濃度をゼロにしないようなK施肥が必要である

□第21図の土壌K含量は土壌全体のマクロな含量であり、マクロな土壌交換性Kがゼロになる前にNa代替吸収が始まる。土壌Na代替え吸収が始まるシグナルはミクロな根近傍のK濃度であり、マクロな土壌交換性がゼロになる前に根近傍のKはゼロになるので注意が必要である。

 

【考察と今後の計画】  

 

国は最近、イオンビーム照射の突然変異体で、細胞膜中のナトリウム(Na)に係るトランスポーター(この報告ではゲートと表現)を破壊し、放射性セシウム(Cs)を吸わない稲の新品種を開発したと大きく報道しました(農研機構2017)。この成果は、水稲の代替ナトリウム吸収により放射性セシウム(Cs)が多量に吸収されるという、上記の放射性セシウム(Cs)集積のメカニズムを支持する傍証として歓迎すべき貴重な報告と考えています。しかしこのような品種開発方法は、植物が環境変動対応するため気の遠くなるような長い時間をかけて工夫し構築してきた体制を、一挙に短時間に抹殺する行為です。危うさを感じます。

福島原発事故以来7年目を迎え、米や野菜などの放射性放射性セシウム(Cs)濃度は沈静化してきました。しかし山菜、天然きのこや原木シイタケなど、相変わらず放射性セシウム(Cs)の一般食品についての基準値100Bq/kgに近い濃度が検出される事例が今でもあります。他の栽培野菜に比べこれら農産物は人為的に施肥でKを補うことが難しいためと考えられます。

キノコは放射性Csの超集積植物でないかとも考えられてきました。しかし以上水稲の事例から、シイタケは殊更放射性セシウム(Cs)を好んで選んで集積する超集積植物ではなく、水稲と同様、キノコの発生回数が多くなると、ホダ木などのカリウム(K)が低下し代替元素を吸収するゲートが突然開き、それまで低かったシイタケの放射性セシウム(Cs)濃度が突然高まるというメカニズムが予想されます。今後もシイタケのセシウム問題に、皆様と力を合わせ、工夫を重ね、引き続き取り組みたいと考えています。よろしくお願いいたします。

キノコは特にセシウムを必要としているのでしょうか  

                  宮城県古川農業試験場土壌肥料部 長谷川栄一

海の昆布の根は根ではないので養分を吸収しません。葉状部から吸収します。一方植物は海から上陸してきましたがその際、根の養分吸収機能を進化させました。

養分の例えばカリウムは、作物の三大栄養素で多量に吸収されますが、作物が急に大きくなる時期に特に多量に吸収されるという特徴があります。海水中に比べ陸上は環境変動が大きいので、植物はカリウム不足に備え2つの戦略を工夫・進化してきました。1つめは環境にカリウムが十分ある場合には過剰に吸収してその後のあるかもしれないカリウム不足に備える体内備蓄対策、2つめは環境にカリウムがなくなった場合のカリウムに代わる特定の元素を根から代替吸収する対策です。代替吸収は根圏にカリウムが枯渇(ゼロ)すると非連続的に突然、代替吸収チャンネルが開き代替吸収が開始されます。体内カリウム備蓄(カリウムの贅沢吸収)ではカリウムを除けば他植物の養分濃度の変動は小さいのですが、代替吸収では昨日まで低い代替吸収成分濃度であったものが今日は急に突然桁違いに高まることも考えられます

カリウム代替吸収元素の代表的なものはナトリウムです。そのナトリウムまでもが枯渇した場合には植物はさらに次の対策を考えているようです。根圏にカリウムがなくなるとナトリウムを吸収し、そのナトリウムがなくなると今度はマグネシウムを代替吸収するようです( 図5 2014日本土壌肥料学会講演要旨)。この代替吸収元素に優先順位があるという仮説は、今後検証が必要です。

水稲コマツナなど多くの作物では、カリウムが十分であればナトリウム吸収はゼロではありませんが少量です。しかしカリウムが不足すると、優先順位としてまずナトリウムを、1桁多量に、積極的に代替吸収を開始しカリウムと同等程度に吸収します( 図1、 図2 2014環境放射能除染学会要旨集、1987宮城県農業センター報告)。それではセシウムも代替優先順位の中で積極的代替吸収されるのでしょうか?

セシウムカリウム枯渇時の代替優先順位元素としては認識されていないようです。セシウムカリウム存在下でも吸収され、さらにカリウム枯渇したナトリウムの存在下でも積極吸収されるからです。さらに、カリウム枯渇時にはセシウム吸収量も多くなりますが吸収されるカリウムとナトリウム原子の個数(カリウムと同じ桁数)に比べ、吸収される放射性セシウム原子の個数は桁違いに僅かです( 表1)。作物がカリウム不足時に代替吸収元素としてセシウムを識別し、セシウムだけを特別に選んで積極的に代替え吸収しているとは到底考えられません。土壌中の安定セシウムカリウムやナトリウムに比べ桁違いに僅かなので、植物の進化の過程で植物がエネルギ-を費やして識別する必要は無かったのでしょう。

玄米への放射性セシウム移行率は土壌カリウム含量の低下に伴い連続的に1桁高まりますが、セシウム移行率は水稲のナトリウムの代替吸収によく似ています  ( 図3、 図4 )。一方ナトリウム吸収1桁増大には、カリウム存在下では閉じていたナトリウム吸収チャンネルがカリウム枯渇で突然開くという非連続的なプロセス性が隠れています。そのため連続的に見える玄米へのセシウム移行率1桁上昇にも、非連続性が隠れていると考えられます。水稲はおそらく、それまで閉じていたナトリウム代替吸収チャンネルが開くと代替元素ナトリウムと微量の放射性セシウムを識別せず代替吸収するので、セシウムもナトリウムと同様1桁多く吸収されるのではないかと考えています。従来のカリウム不足 ⇒セシウムを多量吸収という理解には1段階欠落があり、正しくはカリウム不足 ⇒根の代替吸収チャンネルが開く ⇒セシウムを多量吸収と修正すべき考えています。この仮説は今後検証が必要です。

最近イオンビーム照射の突然変異体で、このナトリウムに係るトランスポーターを破壊したセシウムを吸わない稲の新品種開発されたことが大きな成果として報道されています(2017.5.31農研機構)。セシウム多量吸収が、代替ナトリウム吸収にも係わるという上記の仮説を支持する傍証として歓迎すべき貴重な報告かもしれません。ただこのような品種開発方法は、作物が気の遠くなるような長年の工夫を短時間に一挙に否定抹殺する行為にも見えます。遺伝子編集の人体への応用に似た危うさを感じます。

キノコの場合にカリウム不足時の代替吸収チャンネルがあるかないかについての情報は、ネット検索できませんでした。しかし菌床と原木シイイタケを比較すると、原木のカリウムが僅か2割弱減少すると、一方カルシウム濃度はもともと僅かですが数倍に高まる結果となっています( 図5青柳ら1993日本食品工業学会誌)。また菌床では発生回数が多くなると放射性セシウム移行率が高まる事例もあります(2012富士種菌 きのこかわら版)。また原木しいたけのカリウム含量は発生回数とともにほだ木の重量減を大きく上回るスピードで減少します( 図6、 図7 、図8 2015環境放射能除染学会要旨集)。原木や菌床シイイタケはカリウム供給が限定されるためと考えられます。これらのことから、キノコの場合でも水稲と同様に、カリウムが不足すると代替吸収が開始され同時にセシウムも急に桁違いに多量に吸収されることが起こりえるのでないかと考えています。きのこは特別なセシウムの超集積作物ではなく、例えば他の作物コマツナでさえもカリウム欠乏が過酷になるとキノコ並みのセシウム集積になるのではないかと考えていますが、これら仮説は今後検証が必要です。

しいたけは1週間程度で急に大きくなり収穫されますが、原木しいたけでは特にカリウム供給が限定されるので、キノコ発生回数が少ない初期に放射性セシウム濃度が低くても、ある日突然急に高まるリスクが考えられます。放射性Kと放射性セシウムのデーター(吉田ら1994J.Environ.Radioactivity)を整理すると放射性Kの僅かの低下とともに放射性セシウムが2桁近く高まる事例もあるので( 図9)、対策としてははキノコ放射性セシウム測定時に放射性カリウムを同時に測定してキノコのカリウム栄養状態を把握する方法も考えられます。この放射性カリウム測定の方法が実用的対策になかどうか、今後データーの蓄積と解析が必要です。

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図1コマツナカリウムとナトリウム乾物濃度%  図2水稲カリウムナトリウム

コマツナ水稲茎葉、カリウムとナトリウム濃度に明瞭な変換点がある。、変換点が過剰でも不足でもない最適カリウム濃度と考えている。市場流通コマツナ▲は3倍程度過剰にカリウムを贅沢吸収している。

 

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図3土壌交換性カリウムセシウム 図4土壌交換性カリウムとナトリウム吸収

セシウム玄米移行率と土壌カリウム含量の関係は連続的で、図4のナトリウム吸収(1987宮城県農セ報告)によく似ている。連続的に見えるがナトリウム吸収には図2のように明瞭な変換点、非連続性があるので、セシウム移行率についても連続的に見えても実は非連続的な変換点があると考えられる。

 

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図5 水耕溶液の養分濃度推移   表1 ホウレンソウ1kg中の原子個数

水耕溶液濃度が時間的に低下すると吸収されてることを意味する。カリウムがゼロになるとナトリウム吸収が始まり、ナトリウムがゼロでマグネシウム。代替吸収には順位がある。作物中の放射性セシウム原子個数は、カリウムやナトリウムの1/10000×1/10000×1/10000のさらに以下、カリウム原子数の1兆分の1 以下と極微量なので代替吸収とは考えられません。

 

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図6原木と菌床シイタケの養分濃度  図7発生回数の異なるほだぎ

2割弱のカリ一方カルシウム濃度僅かです数倍に高まるという報告があります。

ウム低下でCaを3倍以上吸収している。

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図8ほだぎ比重と体積当たりカリウム」含量  図9野生キノコのK40と放射性セシウム

発生回数とともにほだぎ比重は低下するが、カリウム含量はさらに急激に減少する。野生きのこではK40が1割低下すると放射性セシウムが2桁高まる事例がある

 

 

 

 

 

 

 

放射性Cs濃度とK40濃度からみた作物のK栄養水準の現状と最適K濃度の推定

ーきのこの放射性セシウム濃度が高い原因についての一考察ー

 

1.はじめに

Kは作物の必須元素でありO、C、H、Nや水稲のSi等を除けば、一般に重量では最も多く吸収される多量元素である。作物の放射性Cs吸収削減にK施肥が有効であるが、一方K資源は今後100年で枯渇するとも言われている。作物はKを無駄に過剰に吸収するので、これまで推定されてきた作物の最適K濃度は幅が広く曖昧である。今後は最適K濃度を幅狭く推定し、放射性Cs吸収の機構を踏まえK施肥法の効率化が必要である。

作物のうち水稲の場合は、根圏のKがゼロに近くまで不足状態となったと察知すると、新たに多量元素のNa吸収チャンネルを開き代替吸収を開始し、量的にもK不足を化学当量的に多量にNaで代替吸収する。新たにチャンネルを開くので代替Naの吸収は非連続的に高まり、水稲茎葉のKとNa濃度にはほぼピンポイントの明瞭な変換点となり、Naの代替吸収開始点から水稲の最適K濃度を幅狭く精度よく推定できる。推定した最適K濃度から計算すると、水稲は形が急に大きくなる時期にKを最も多く吸収し、K栄養が十分であれば形が決定された出穂後はKを吸収しないと推定した。微量元素の安定Csは、根圏にKがあっても積極吸収されるが、根圏のKがゼロとなると新たに代替元素のNaチャンネルが開きCsが1桁多く積極的に吸収されると考えられた。(2013環境放射能除染学会要旨、1985宮農セ報告)。最近の放射性セシウムを用いた報告(2015 SSPN)でも、水稲の出穂後の放射性Csの吸収は僅かであるとされている。

このように根圏Kがゼロになると開始される多量元素の代替吸収から、作物の最適K濃度を幅狭く推定することは作物の生産コスト削減に加え、放射性Cs対策を効率的に進める上で有用である。しかし代替吸収される多量元素の種類については作物別に優先順位がある。例えば水稲や多くの野菜ではNaをまず優先して代替吸収するが、トウモロコシではMgをまず代替吸収する(2014土壌肥料学会要旨)。一方微量元素であるCsについては水稲の場合を敷衍すると、作物の種類によらず多量元素の代替吸収が開始されると放射性Cs吸収が非連続的に1桁増大すると予想される。そこでこれまで蓄積された、作物の放射性Csと放射性K40の膨大なデーターから、作物種別に、最適なK濃度の推定を試みた。また作物のK栄養水準については、原発事故以来放射性Cs濃度の低下がほぼ順調な野菜と、低下が緩慢なしいたけについて検討した。

 

2.放射性Csと放射性K40濃度のデーターから、野菜のK栄養水準の現状と最適K濃度を検討した。

既存のデーターのうち、K施肥水準を変えて作物のK、Na濃度が報告されている数種の野菜については、KとNaの濃度の関係の変換点から最適K濃度を推定し、市場流通のものは最適K濃度の2~3倍過剰吸収している場合もあることを報告した(2014環境放射能除染学会要旨)。ここではこれまでの数多くの種類の野菜の放射性Csと放射性K40のデーターのなかから種類の野菜を抽出し、1%K濃度=30.4Bq/kgで換算しながら、野菜の種類毎に、K栄養水準の現状と最適K濃度について検討した。

 

3.原木しいたけはK不足になると代替吸収チャンネルを開きCsを1桁多く吸収すると考え、ほだ木樹皮のK栄養水準の経年変化の検討を試みた。

既存のきのこのK、Na、Ca、Mgのデーター(五訂食品成分表)から、きのこ類は野菜に比べK不足状態にあると考えられた。きのこは短時間に急に大きくなるので一時的なK要求量が高いと考えられる。しいたけはほだ木の限られたK栄養源下で生育するためK不足になりやすく、またほだ木樹皮の放射性Csに比べKは降雨で溶脱しやすく、そのためその伸長期に一時的にKが不足し代替吸収チャンネルが開き放射性Cs濃度を1桁高めるという仮説を考えた。そこでしいたけほだ木樹皮の放射性CsとK40の経年変化調査を試みた。

野菜における放射性カリウムの過剰集積とナトリウム吸収から推定した放射性セシウム対策のためのカリウム施肥の適正化

1.はじめに

 セシウムの農作物への移行低減にはカリウム施肥が有効である。しかしカリウム資源の可採年数が100年余とも言われ、またカリウムには放射性カリウムが常に含まれていることから、カリウム施肥の適正化が今後一層必要となる。前回水稲のKとNaの吸収から水稲の最適K濃度を推定、最適K濃度はCs対策上も合理的であることを報告した。今回はカリウムを過剰に吸収しやすい野菜(葉菜)で、既存の資料をもとに同様の検討をおこなった。

2.試験方法

既存文献データーを野菜(葉菜)のカリウムとナトリウム濃度の関係に整理し、その変換点を最適カリウム濃度と推定して、市場流通の葉菜のカリウム濃度と比較した。

3.結果と考察

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図1水稲茎葉のK2OとNa2O乾物%(1987) 

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図2コマツナのKとNa乾物%(1995)    

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図3ふだんそうK2OとNa2O乾物%(1998) 

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図4おかひじきのK2OとNa2O乾物%(1998)

野菜のうち特に葉菜はカリウムを過剰に吸収する。葉菜のカリウム濃度は最適カリウム濃度の2~3倍に達する場合があると考えられた。例えば市販のふだんそうではK40は360Bq/kgであるが、カリウム施肥を最適化すれば115Bq/kgまで低下できる。野菜の放射性Cs基準は100Bq/kgであり、葉菜の放射性Cs性削減のためのカリウム施用については、K40を過剰集積しないようにカリウム施肥の適正化も併せて必要である。

4.参考文献

Hasegawa・Yoneyama1995.Soil Sci.Plant Nutr,41,293-298.高橋英一・前嶋一宏1998.近畿大学農学部紀要,31,57-72.食品成分表2013.女子栄養. 長谷川ら1987.宮城県農業センター研究告,55,19-36.